なぜアクアポニックス?②

今回は前回のブログで指摘したコオロギ騒動の原因を踏まえて、本題である「なぜ今、日本でアクアポニックスが必要なのか?」というテーマについて考えていきます。

 

まずは地理的特性から考えてみます。アクアポニックスは耕地面積が限られる地域や水源が少ない地域に適した農法であることは、「アクアポニックスについて④」で述べました。それを踏まえて我が国においてどうかということですが、他国との比較で考えてみた場合、水資源は豊富なものの、山岳の多い島国ということから耕地面積は少ない方と捉えられています。よって、大まかに見れば耕地面積が限られている都市部や離島地域で有効な農法と言えます。

ここから少し細分化して、都道府県単位での必要性を考えてみます。とはいえ、全ての地域の状況は分からないので当地の新潟県で考えみると、佐渡と粟島という離島地域を除いた本土側は他の県とほぼ同様に海と山に囲まれ、複数の河川の周辺にできた平地に都市部が形成されています。ただし、都市部からそう遠くない地域に農地が広がっているので、都市農園の需要は限られているでしょう。一方で、山間部の農地は単位当たりが小さくなってしまうため、特に作業の効率化が求められる稲作にはマイナス要素があります。そこをアクアポニックスなどの施設園芸に切り替えることで増益を図るという考えはあります。ただし、山間部で育った米は食味が良いブランド米になっていることや、山間部は積雪量が多いので冬季間の施設維持にコストがかかることを考慮する必要があります。これらを考えると、農業用水の確保に障害がある佐渡や粟島では水資源の効率的利用の観点からアクアポニックスの導入に理由を見出せますが、本土側においては地理的な必要性は低いと考えられます。

 

次に都道府県単位の産業面から考えてみます。新潟県の農業生産額と作付面積のデータ(令和2年 https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/tokei/1356865340711.html)を見ると、生産額の60%、作付面積の80%が米です。「新潟=米」の全国的イメージがデータでも裏付けられた形ですが、それと同時に単純にはいかないものの、作付面積と生産額の20%の差は米の単価が低いことの表れでもあります。それに加えて、国内全体のコメの消費量の低下や他県産のブランド米の増加などにより、今後とも生産額の低下傾向は続くと考えられています。このことから、県としても2018年の減反政策廃止の前から「稲作から園芸への移行」を政策として進めています(新潟県園芸振興基本戦略 https://www.pref.niigata.lg.jp/site/nouen/engeisinkoukihonsenryaku.html)。県が振興しているブランド農産品はいくつもありますが(ルレクチェ、越後姫、黒崎茶豆、八色スイカ等々)、残念ながらその知名度は県内に留まっており、現状では稲作からの転換はなかなか進んではいません。とはいえ、その方向性は当面続くと考えられるので、今後は仮に園芸振興基本戦略の中にオーガニック野菜の栽培振興などが追加された場合などは、行政との連携が見出せるかもしれません。

新潟県の水産業(https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/nogyosomu/suisantiiki191224.html)についても、園芸農産物と同様に地域の特産品(寒ブリ、南蛮エビ、ズワイガニ等々)はあるものの、こちらも知名度は県内に留まっています。そしてその豊富な漁獲量により地域内での消費は満たされており、あえて陸上養殖で食用淡水魚を生産する必要性は低いと考えられます。魚については「県の魚」として振興対象となっている錦鯉などの観賞魚に需要がありそうですが、現在は農地での養殖業は認められていないので、魚の販売のハードルは高いと言えます。


以上の条件を踏まえると、県の園芸振興という大枠の流れに乗りつつも、地理的必要性が薄い本土側の平地でアクアポニックスを始めた私は、別の理由を見つけなければなりません。ただし、ここで国連報告やSDGs等の海外要因を安易に持ち出すと、コオロギの二の舞となる危険性があると前回指摘したところです。

次回はこの結論について書きたいと思います。

2023年03月30日