なぜアクアポニックス?③

前回は日本全体及び新潟県の地理的条件と新潟県の農水産業の現状及び今後の動向から、アクアポニックスの導入の必要性について考察してきました。その結果、新潟県の本土側の平野部では環境要因からのアクアポニックスの必要性は低いとの結論に至りました。それでは何をもってアクアポニックス事業の継続理由とするのかについて、結論を導き出したいと思います。

 

前回・前々回とコオロギ騒動を例に挙げ、安易に国連報告などを持ち出すべきではないと指摘してきました。なぜなら、いくら国連が地球規模での食料危機や水資源の枯渇を主張しても、現状の日本ではその可能性の片鱗も見えていないからです。食料自給率の問題はあっても、現在でも「飽食の時代」は続いており、少なくとも日々のニュースで「貧困による餓死」という話はまず聞きません。水の問題にしても、局所的な渇水問題はある一方、十年に一度の大雨洪水被害は毎年どこかで起こっており、押しなべて言えば国内で水の枯渇を予見できる状況はありません。つまり、国連の報告と国内の一般の感覚は乖離しており、それでも無理やり押し通そうとするとどうなるかは、前々回で詳しく指摘したとおりです。同様に、SDGsや環境問題からのアプローチについては「SDGsに対する私見」で詳しく述べたとおり、私自身はアクアポニックスの導入理由としては考えていません。

 

では何を目指してアクアポニックスを導入するのかと言えば、少子高齢化による労働力不足の解決策の一つを見出すことです。「社会的取組み」でも触れましたが、人口動態として当面は若年労働者の総数自体が減少していくことは避けられず、一方で長らく続いたデフレ経済からようやく脱却する道筋も見えたことから、全職種での人手不足が予想されています。その中でも従来から職業としての人気が低い一次産業は、更なる労働力不足が懸念されます。

農業界でもトラクターの自動運転やドローンなど、ICTの導入による労働負荷の低減が進みつつありますが、人自体を減らせる状況ではありません。仕事の内容や地域などの状況から、将来的も「完全自動化により人は要らない」ということにはならないと思います。とはいえ、少人数でも仕事を回せる、高齢者でも負担が少なくて長く働けるようにするには、この技術発展の方向性は間違っていないと思います。

そんな中で農業と水産業が融合しているアクアポニックスは、少ない労働負荷で食料供給量を増やせる事業として需要があると考えます。このアプローチでは地域特性や環境特性は関係ないので、北国の平野部であっても効果は変わりません。逆に地域的には人口減少が進む市町村内ですから、今後の需要は増加するでしょう。

 

一方で国の政策としては、有機農業の拡大と普及を目指して推進しています。

(参考資料 https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/meguji-full.pdf  ) 

オーガニック野菜の需要に比べて国内産の供給が少ない現状を改善するための政策ですが、一般的に有機農業は慣行農業に比べてコストが増えることから、上記の労働負荷の低減の流れに逆行することになります。増加するコストの中身としては除草や防虫の作業量及び資材や有機肥料の単価及び使用量などが挙げられますが、アクアポニックスでは「有機肥料=魚のエサ」であり、従来の有機肥料よりも安価に用意できます。ましてや昨今の肥料価格の急騰を鑑みると、資材コストの低減という効果も期待できます。

 

以上をまとめると、従来より少ない労働力と資材コストでオーガニック野菜と魚の二つの収入源を得られるアクアポニックスは、労働力不足対策、資材価格高騰対策、有機農法推進という国の政策と、稲作偏重からの園芸振興という県の政策に沿うものになると考えます。ただし、そのためにはアクアポニックスが「エコ活動」の延長ではなく、「農法・養殖法」として定着していなければなりません。現在はそこが未だ定まってはいない状態なので、まずは新しい農法として認知されるようにしたい。私はその先駆けとして、小さくとも地道に、一歩一歩進んでいきたいと思います。

2023年03月31日